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季節を贈るという日本の知恵──お中元に込められた“こころ”と“味”の文化

梅雨の合間に夏の気配が少しずつ感じられるこの時期。
日本には、古くから「お中元」という贈り物の習慣があります。
単なる贈答(ぞうとう)ではなく、そこには季節を感じる心人を思いやる文化が息づいています。


お中元のはじまりと、そこにある思い

お中元の起源は、中国の道教に由来する「中元節(旧暦715日)」と、日本の祖先を供養する「お盆」の風習が融合したものとされています。

もともとお盆には、神仏やご先祖様にお供えした食べ物を、家族や地域の人々で分け合っていただく「共食(きょうしょく)」の文化がありました。

この分け合う心が、時代とともに形を変え、感謝の気持ちを込めて品物を贈るという贈答の習慣へと発展していったのです。

日本人は古くから、贈る相手の健康や暑さの厳しい夏を元気に乗り切ってほしいという思いを込め、体にやさしい食べものを選び、食を通じてこころを届けてきました。

お中元は、ただの形式ではなく、人と人とのつながりを丁寧に育む、思いやりの象徴といえる文化です。


 

行事食としてのお中元

お中元には、昔から夏の疲れをやわらげ、体調をととのえるような食べものが選ばれてきました。
 

たとえば、冷たくしてつるりといただける「そうめん」や「うどん」は、食欲の落ちやすい季節にも食べやすく、涼しさと栄養の両方を届けてくれます。
 

また、常温で長期間保存できるため、受け取る側にも負担が少なく、実用性にも優れた贈り物でもあります。
それだけでなく、「そうめん」や「うどん」には縁起物(えんぎもの)として「細く長く円満な関係が続きますように」といった意味合いも込められています。

 

こうした「行事食」には、四季の移ろいとともに食を楽しむ、日本人の知恵と心づかいが詰まっています。

現代における「こころの贈り物」

時代の移り変わりとともに、お中元に選ばれる品物は多様化しています。
冷たいお菓子やドリンク、地域の特産品、冷凍食品など、幅広い選択肢の中から、ライフスタイルに合わせて贈ることができるようになりました。

 

一方で、お中元の風習自体は少しずつ簡略化されつつあります。

それでも、どれほど時代が変わっても、「相手のことを思って選ぶ」という気持ちは、今も変わらず受け継がれています。

「暑さに気をつけてお過ごしください」「いつもありがとうございます」

そんな気持ちを、季節の味わいとともに丁寧に届ける。

お中元は、ただの習慣ではなく、食を通じて人と季節とつながる日本の知恵
贈る側の思いやりと、受け取る側のうれしさが重なり合うこの文化を、時代に合わせてこれからも大切にしていきたいものですね。







参考文献

中川政七商店. (2023, June 22). お中元とは?贈る時期やマナー、由来を知って気持ちのよい夏のご挨拶を. さんち 〜工芸と探訪〜. https://story.nakagawa-masashichi.jp/20654

長谷川本店. (n.d.). 盂蘭盆会(うらぼんえ)とは?お盆の起源・由来とお供え物の意味. https://www.hasegawa.jp/blogs/kuyou/urabone

坂利製麺所. (n.d.). お中元にうどんを贈る意味とは?由来や選び方も紹介. https://www.handamen.com/blog/udon_gift/

日本郵便. (n.d.). お中元の定番がそうめんなのはなぜ?意味ってあるの?. https://www.shop.post.japanpost.jp/column/ochugen/ochugen_teiban.html

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