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屋台の歴史 ー 日本のファストフードの原点

「屋台」と聞くと、夏祭りや縁日のにぎやかな風景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし本来、屋台とは屋根と台を備えた移動可能な簡易店舗のことを指し、その場で飲食や物販を手早く提供する仕組みを備えたものです。
かつての屋台は、特別なイベントのためのものではなく、日常の食を支える存在でした。
そのルーツは、江戸時代にまでさかのぼります。



江戸の町に根づいた“手軽な食”のかたち
江戸の町には固定の飲食店も存在していましたが、忙しい庶民や職人たちにとって、手早く・安価に食事を取れる屋台は非常に重宝されていました。

当時の屋台には、
「振り売り」:そば売りに代表される、担いで移動しながら販売する形式
「立ち売り」:すし屋などに見られる、仮設の台を据えて販売する形式

という2つのタイプがありました。
いずれも車輪のない据え置き型で、簡便な料理をその場で提供していました。
そば、すし、天ぷらといった人気料理は、調理時間が短く、外出先でもさっと食べられるものばかり。まさに、“江戸のファストフード”といえる存在でした。



現代の屋台文化の源流 ― 戦後の闇市
現在見られるような屋台文化の直接的なルーツは、第二次世界大戦後の混乱期にあります。
1945年の終戦後、日本の都市部は焼け野原となり、多くの人々が職や店舗、家を失いました。

そうした中で、戦災で店を失った人々や、海外からの引揚者[1]、戦争未亡人[2]たちが生活の糧を得るために始めたのが、闇市での屋台営業でした。
こうした屋台は、人々の空腹を満たすとともに、復興のエネルギーを支え、これが、現在の屋台文化の直接的なルーツと言われています。

こうした戦後の屋台営業が、現代に続く屋台文化の土台を築いたとされています。



季節とともに生きる、現代の屋台
高度経済成長に伴う都市の整備や、道路・衛生・防火に関する規制の強化により、日常の中の屋台は次第に姿を消していきました。
現在では、屋台は夏祭りや縁日、初詣などの行事とともに楽しむ“季節の風物詩”として親しまれています。

たこ焼き、焼きそば、かき氷、りんご飴、チョコバナナなどの定番に加え、近年では韓国のチーズハットグや台湾スイーツといった海外のストリートフードも登場し、伝統とトレンドが共存する多彩な屋台グルメが楽しめるようにもなっています。



今も息づく、屋台の魅力
時代とともに姿を変えながらも、屋台には今も変わらぬ魅力があります。
調理の音や立ちのぼる香り、作り手との会話、目の前で仕上がっていく料理……。

そこには、五感で味わう“食の原点”があります。

また、素材の味を活かしたシンプルな料理や、出来立てをその場で楽しむライブ感は、まさに日本の食文化の粋(いき)ともいえるでしょう。

屋台は、季節や地域に寄り添いながら人々の暮らしに根ざし、時代ごとの“食”のあり方を映し出してきた存在です。
私たちもまた、そんな屋台の精神に学びながら、心に残る一品を届けることを大切にしていきたいと思います。



(1)日本の海外領土や占領地から日本本土へ戻ってきた日本人
(2)戦争で夫を亡くした女性



参考文献
村岡祥次. (n.d.). 日本文化の醤油を知る 江戸食文化の定着(1). https://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/reference-16.html
屋台けいじ. (n.d.). 屋台の歴史. https://www.yataikeiji.com/history.html
八戸屋台村. (n.d.). 屋台の歴史. https://36yokocho.com/office/yatai_history/
HIRAKEL. (2021). 意外と知らない屋台の歴史解説. https://www.stand-3.com/column/food-stalls/4766/
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